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『先生とそのお布団』感想

   

ストーリー
これは石川布団という作家と、人語を解す「先生」と呼ばれる不思議な猫とがつむぎ合う苦悩と歓喜の日々。企画のボツ、原稿へのダメ出し、打ち切り、他社への持ち込みetc…。布団はさまざまな挫折と障害に直面しながら、それでも小説を書き続ける。ときに読者に励まされ、ときに仲間に叱咤され、素直に、愚直に、丁寧に、ときにくじけて「先生」に優しく厳しく叱咤激励されながら――。売れないライトノベル作家と「先生」とが紡ぎ合う、己が望む「何か」にまだ辿り着かぬ人たちへのエール。優しく、そして暖かな執筆譚。

喋る猫「先生」に叱咤激励を受けながらライトノベルを書きつづける売れない作家の物語。
あー、なんだろうなー、色々と胸に迫るものがあるのは確かなんだけれど、これどこまでフィクションでどこまで史実なんだ……とりあえず喋る猫は史実としても……。
この才能を埋もれるにまかせてしまった読者の1人として忸怩たるものがある(何様なんだ)し、ちょっと冷静には読めませんでしたが、面白かったです。


石川布団(ペンネーム)、売れないライトノベル作家。デビュー作は『猛毒ピロリ絶賛増殖中』全3巻、次作は『タカムラさんの修学旅行で無人島漂流からの大逆転サバイバルマニュアル』。以後他レーベルへの持ち込み等で新シリーズを出すも、ことごとく打ち切りの憂き目にあう。
いやあ、これは、まあそういうことですわな。作者本人の体験を小説に落とし込んだような作品はいくつか読んだことがありますけど、ここまで「まんま」だとなんだか落ち着かない気分です。いや、どこまで「まんま」なのかは知らないんだけど。お話の雰囲気的に。なんというか。こう。
執筆風景や、作家と編集のメールや電話のやりとりなど、リアルな作家の日常は楽しく興味深く読めました。『少女御中百合文書』を改稿する場面など最高です。作家ってすげー!
一方で、新作の企画がなかなか通らなかったり、売り上げが振るわずに打ち切りが決まったりするのはやはりキツい。吸血鬼のやつとか、やきゅ……じゃない、相撲のやつとかは僕も読んだし、アイドルのやつなんか諸手を挙げて応援したし、なんなら『このライトノ……じゃない、『いますごいラノベはこれだ!』にも投票したというのに! なんでよ! どうしてなのよー!
いや、落ち着け。これはフィクション、あくまでフィクションだから……。


小説の執筆と同じくらい丁寧に描き出されているのが、猫への愛です。「先生」は人語を解するおかしな猫ではあるけれど、たぶんそうでなくても、1人と1匹だけで暮らす中での対話というか、そういうものがあるんだろうなあと、両者の穏やかなやりとりを読む中でじんわり感じとりました。他のいのちと一緒にいるっていいもんだなあ。
作家仲間の和泉がどんどん高みへと上っていく一方、新作をまず出すことにすら難儀をし、出しても売れず、を繰り返す布団氏。
でも書く。色んなレーベルを渡り歩いて持ち込みをしてでも、同人誌としてでも、作品を世に送り出す。そこに書かないという選択肢はない。
パッと見では、布団氏に、小説執筆に対する特別強い情熱や思いがあるようには感じられない。もしかしたら胸の内に秘めているのかもしれないが、ともかく表からはあまり見えない。でも書いてる。当たり前のように。息をするように。作家というものは、まったく不思議な生き物だなあ。
石川布団氏のこれからの活躍に期待しています。心から。


イラストはエナミカツミさん。この表紙の冴えないおじさん感がすごくいいですね。
あと「先生」。積極的にモフモフしていきたい。


女の子からのメールの行間なんて読めるかー!